~語彙力薄弱~

やんわり作品レビューなど

客と襟付シャツと私

 先日、3年間続けたアルバイトを退職した。レジ打ちや品出し掃除と雑に扱われ、身も心もボロボロになった、とか言うわけでもなければ、何か事件事故を起こしたわけでもなかった。円満退職である。辞めると言った当初こそ社員様には微妙な顔をされたものの、最後には笑顔で送り出して頂けた。

 

 私にとって初めての接客業、というよりそもそも初めてのアルバイト、むしろはじめての社会活動。不器用な一般学生である私であったが、あまり甘やかしてはもらえなかった。それを望んでいたわけではないとはいえ、泳げない者が海のど真ん中に投げ落とされたようなものなのだから、もちろん相応に手厳しいものであった。泳げない者は浅瀬でチャプチャプするところから始めるものではないのだろうか。水中で目が開けられたからといって、いきなり飛び込みはさせないだろう。 

 そうして半ば強引に飛び込まされた先は、いわば混沌を極めた戦場であった。私に降りかかった災難は数知れず、パワハラモラハラ、セクハラ、理不尽な要求、暴力、暴言、クレーム、天災、疫病、などなど挙げればキリがなく、思い返しても本当にろくなことがなかった。

 

 それでもやり続けたのは周囲の人の「あったかさ」があったからだと思う。店員同士で会話していると、今まで見えなかったものが見えてきたりする。そして自分の世界が広がっていく喜びがあった。お客さんに一言「ありがとう」とか「おつかれさま」とか言ってもらえるだけで「やりがい」が生まれる感覚があった。

 

 何かあって落ち込んだりしたときも、人の「あったかさ」に触れるたびに「しょうがねぇなぁもう少し続けてやるか」という気分になって。もうそれを何回やったかわからないのだが、気づいたら3年経っていた。乗せられやすい性格も、ここまでくれば長所である。なんだかんだ楽しんでいる部分もあったのかもしれない。

 

 長いようで短かったアルバイト生活。(ごく一部を除き)とてもお世話になった社員様に。とても頼りになった同僚の方たちに。応援してくれたり、愚痴を聞いてくれた友人たちに。そして私に「やりがい」をくれたお客さんたちに。本当にありがとうございました。

 

 さて、もう書くべきことは書いた。アルバイトの経験をちょっとした「人情苦労話」として語るなんて、おそらく私に求められているのはそういうことではないとわかりきっている。

 次からはTwitterで言ったように、「ろくなことがなかった」話を延々としていこう。