~語彙力薄弱~

やんわり作品レビューなど

接客打線(1) 1(二)おっさん等「オオン!ワオン!(咆哮)」

1(二)おっさん等「オオン!ワオン!(咆哮)」

 

 かつての私の勤務先には、支払いに電子マネーを使うお客さまが多くご来店なさった。電子マネーとひとことに言ってもいくつか種類があるのだが、圧倒的に多かったのは交通系IC、次点で「WA〇N」が続いた。本体をかざし「ピピッ」だか「ワオン」とか、そういう類の音が鳴れば会計が終わるというそのスムーズさは、老若男女問わず使われる理由の一つとして十分であった。

 

 ここでちょっと本筋とは関係ない話をしたい。「WA〇N」はスムーズさとかポイント付与とかの他に「かわいさ」を売りにしている節があると思うのだが、残高が不足したまま会計した際、あのカードは愛らしい声など聞かせてはくれないばかりか、文字に起こすとすれば「ミ゛゛ーーーーー」あたりが適当であろうけたたましいエラー音が鳴り響くのだ。ぜひともあれをどうにかして頂きたい。「ピー」みたいな小鳥のさえずるような可愛げすらないのだ。もう残高が不足してたら「にゃーん」とかにしませんか?

 

 さてそんなWA〇Nカード、自動レジなぞ縁が無かった私の所属店舗では、作業のほぼすべてが何らかのマンパワーを介して行われていた。

 そこで多く遭遇したのが、店員である私のもとに来るなり「ワオン!!!!」と咆哮する方である。あらかじめ伝えておくがこの咆哮自体に(おそらく)意味はなく、またほとんどの場合支払い方法を私に伝えているだけである。そこで叫んでしまうのは、私への威圧か、それまたりきみか、よもやツンデレか。残念ながらこの傾向は中年男性に多く、世間一般に流布する「キレるおっさん」像のイメージ確立に一役買う形となっている。それらを踏まえると、オッサンのツンデレは誰が得するのか正直わからないので「威圧」と「りきみ」が多くを占めるだろうと思っておきたいところである。

 入社当初は咆哮される度「同じ人間でありながら言語が通じない」ということ自体に恐怖を感じていた私であったが、1か月後にはただ困惑するようになり、3か月目になると彼らの生態というものに”あきれ”つつも、割り切りというかたちで環境に順応していった。

 そもそも、彼らが「ワオンで支払いをします」などと決して言おうとしないことに問題があるのだ。赤ちゃんが「 ま ん ま !!」と名詞を叫ぶだけで「あらま~○○ちゃんおなかすいたの!ちゃんと言えてえらいでちゅね~!!」的な感じで都合よくそれを文章また感情表現として解釈してもらえるなんて、どうがんばっても通用しないことぐらいわかるだろう。しかしそれがスムーズに通じることが評価に繋がってきたりもする。

 残念ながら、本件と類似したパターンとしてタバコの銘柄を叫ぶ方(これについては補欠 「お前は日本語が読めないのか?」で触れる予定)、支払方法の選択でいちいち激昂する方などが一定数いらっしゃる。それじゃいかんでしょ。

 

 これ人間全員に言い聞かせたいし自分でも注意していることなのだが、何事に関しても名詞で会話が成立すると思わない方がいい。なにも客と店員間の話に限ったことではない。コミュニケーションの話である。「醤油!」と叫べば全員が全員手元にある醤油を取ってくれるわけではないのだ。醤油を取ってくれることは一種の「追加のサービス」であり、常にそれが普通のことではないということを忘れがちである。文構造を意識して話をすることが、円滑なコミュニケーションへの第一歩だろう。 いやここで啓蒙活動をしたいわけじゃないんですけどね。

 正直満面の笑みで「ワオン♥️」とか言われてもそれはそれで不気味であるし、私は別に客に愛想なんて求めていないのだ。求めてるのは文構造だけだ。

 というか、むしろ愛想を求められるのは往々にして我々である。スマイルを注文されなかっただけましだったと思いたいが、なんというか接客で働く者、こちらもこちらでなかなか難儀な者なのである。