~語彙力薄弱~

やんわり作品レビューなど

最近やったゲーム「キスベル」の感想 (前編)

 おめでたき2020年初更新が既に3月、加えて成年向けゲームの話ってのもいかがなものか。と思う一方で、前回が「飛んで川口」だったこともあり、書きたいことを書けてればテーマなんぞブレブレで構わないとも思っている節がある。

 

 ゲームはゲームでも成人向けというジャンル、俗に言うエロゲというものを購入したのは久しい。たぶん3年ぶり2回目ってぐらい。正直、私個人はあんまりエロゲが「得意」ではないのだ。めちゃくちゃ失礼な話なのだが、単調な文と内容の薄っぺらさにモチベーションが負けてしまうことが多くて、そっち方面に手を出すことはあんまりなかった。

 

 それでもキスベルは私が初めて出会ったエロゲゆえ、思い入れが強かった。というより長津田さん(※ヒロインのうちの一人)との出会いに対する思い入れが強いゆえに、プレイする気持ちになれたんだろう。多分これは思い出補正、ないしは思い出バイアスというやつだ。
 本作と出会った当時は「モバイルゲーム」としてその存在を認知していたため、公式サイトを訪れたときまさか18歳かどうか確認されるなんて思っていなかった。長津田さんとはもっとこう、清く正しいお付き合いをするものだと思っていたわけです。当時中学生の私はひどく動揺し、やりきれない衝動をどこにぶつけたらよいものかと教室でゴロゴロとのたうち回ったものです。しかし今回プレイした段階でも、本編における彼女の「(私たちの関係は)清いかしら?」という発言に相当動揺したのは事実だったりするので、いまだに私は処女信仰みたいなものを引きずっているのかもしれない。ともかくヒロインとその脚本については「後編」で触れることにする。

 

 2012年に発売されたこのゲーム。当時、自分とそれの間にはとても高い壁があったわけだが、気づけば既に8年が経過していて、壁はいつの間にか無くなっていた。嬉しいのか悲しいのかわからないけども。

 

 加えて劇中、彼らが赤外線通信を使って連絡先を交換する姿からも、8年という時間の流れを実感させられることになる。連絡はメールか電話。ちょうど2012年は、我が国において様々な面で切り替わりが起こり始めた時期なのだと思う。
 正直な話本作の脚本からは、その切り替わりにうまくついていけてない様子が感じられる。なにもデバイスの話だけをしているわけではない。主人公の暮らしぶり、そしてキャラの掛け合いにも、「学校生活からしばらく離れていた人の想像する学校生活」が描かれているようで、所々つっかかってしまいがちだった。

 本作を通してそこはかとなく感じる「コレジャナイ感」の正体を言い換えるならば、「大人が学生を演じている感じ」とも表現できよう。しかし私も既に学校の「生徒」ではない(そうだったらなかなかにまずい)。製作者と同じ側に立たされてしまっている事実。もし私が「学園モノで原稿を書いてくれ」と依頼されたら、似たようなものを書いてしまう気がするぐらいには「等身大の学校生活」が簡単に解釈できるものではないと知っているつもりだ。

 いっそこのゲームのヒロインがド金髪とかピンク髪の女の子であれば、割とはっちゃけたシナリオや設定にしても違和感なんて残ることはなかったのかもしれない。これはきっと、このゲームのコンセプト「イチャラブコミュニケーション」を、比較的現実路線の学園生活に落とし込んで表現しようとしたゆえに起こったジレンマなんだろう。

 

 で、結局本作はどうだったかというと、ジレンマを完全に無視してそのコンセプト「イチャラブコミュニケーション」をやりきってくれたと思う。その姿勢だけは決してブレなかった。内容が粗いとか文体がどうとか言っても、至極真っ当な学園モノをやりきろうとしたその気持ち、熱意を十分に感じることができた。そこに関しては高く評価をしたい。

 もしかしたら、むしろ下手にリアリティを追い求めすぎないことが「エロゲらしさ」、もとい「本作らしさ」としてそこに在るのかもしれない。キャラクター間で交わされる「また明日ね」というやり取りに愛おしさを感じる瞬間。朝、自分の家に彼女が起こしに来てくれるとかいうシチュエーション。エロゲとして現実を求めすぎず、かつ現実から離れすぎず、その微妙な距離感はいちプレイヤーとして心地よさを感じるところであった。なんだかんだ言ってけっこう楽しませて頂いてたんだなぁと、これを書きながらしみじみ思う。

 学園モノは永遠のテーマでありつつ王道で、それゆえに深い。表現としてどこに個性を出すのか。意外と考えてみると難しい。本作は今一度それを問い直す機会をくれた作品となった。

 

 やっぱり私は学園モノが好きなのかもしれない。

 

 さて、長津田さんを語りたいので「後編」に続きます。